いつまでたっても

ハチミツとクローバー 10 (クイーンズコミックス)

ハチミツとクローバー 10 (クイーンズコミックス)

遅ればせながら、昨夜、寝る前に読みました。
一応、ネタバレはしない方向で書きますが、
私の感情で色々と想像できてしまうかもしれないので、
未読の方は注意してくださいね。


さてついに最終巻です。
覚悟をしていても号泣でした。


ストーリーは割と漫画的なのに、それぞれの感情がひどく現実的だから、
どうにもできない憤りや、それにつきあっていくしかないこと、
一緒に過ごした時間があっという間に通り過ぎてしまうこと、
ずっと一緒にはいられないことを悟ってしまうこと、
キラキラしたフィルターが脳みそにはりついてしまうことなどは、
身に覚えがありすぎて、つい泣いてしまいました。
卒業して学生じゃなくなる瞬間、
淋しかったし、嬉しかったし、不安だった。
そういった感情を、最終的には少しもちゃかすことなく、
著者がそれぞれに愛情を注いで、丁寧に丁寧に描いたということが伝わってきました。
それぞれの幸せのあり方っていうのを、感じることができました。
少女漫画にありがちな、数年後の彼らの描写などが出てこなくて心底良かった。


余談ですが、私はその「〜何年後の彼ら〜」みたいなのが好きじゃないです。
小説にしても、漫画にしても、ドラマにしても、
ちょっと余韻を残してくれるくらいがちょうどいいと思っているので、
最終話でとってつけたように数年後のシーンが入る、とかもう嫌なんです。
そのシーンがあってもなくてもいいって思われて、作品の価値を下げるくらいなら、
もう受け取る側の想像に委ねてよ!と思うのです。
そんなにうまくいかないの知ってるから、見たくないっていう気持ちもあるし、
あんまりうまくいってても都合良すぎると思ってしまうから、
作品の中でくらい時間をとどめておいてほしい、と思うのかもしれません。
結局はフィクションだって思い知らされることが嫌なのかもしれませんね。
こっちはあらかじめフィクションだってわかって、自分なりに考えているんだから、
最終的な考えは押しつけないでほしいと。
現実逃避が得意な私個人の自分勝手な意見ですけど・・。


そんな意見を持つ私にも、「ハチクロ」は最後まで本当におもしろく読めました。
何度泣かされたことか。それでいて笑えるし。
登場人物の欠点も、笑いにしたり、愛しく見せたりしてるから、
気付いたら出てくる人たちみんな好きでした。
そして、少女漫画にありがちな完璧なハッピーエンドではなく、
主人公たちが前向きに未来に向かっていくのが想像でき、
だけどこれからも色んなことに悩んでいくんだろうと思える、
たぶんこれ以上にないくらい納得のいく終わり方でした。
最後の最後まで登場人物たちが、
私たちと同じように泣いたり笑ったりしながら現実を生きていました。


漫画を読んでいるとたまに生まれてくる理不尽な感情は、これを読んでいる間はなかったです。
最初からベタベタのコメディ仕様であれば、
最終的にギャー!ありえない!ってオチでもいいんです。
そして、最初からドのつくシリアス仕様であれば、
最終的に不幸のどん底に落ちて終わり、っていう救いのない話になってもいいんです。
軸がぶれないっていうのが大事なのであって、
突然、方向変えたな、というのが見えると、興醒めです。
この漫画のおもしろさは、コメディとシリアスが共存しているところであって、
それって人生そのものだと思うんですよね。
コメディだけの人生もないし、シリアスだけもないっていう。
そのへんの割合と、デフォルメの仕方に、センスが出るんだと思います。
心地よい割合っていうのをきっとそれぞれが持っているけど、
その割合は受け手によって全く違っていて、
しらけるか、盛り上がるかで、作品の出来まで変わってしまう。
私にはちょうどいいさじ加減だったということでしょう。
だから、多くの支持を受ける作品というのは、
私が好きであれ、嫌いであれ、やっぱりすごいものなんですよね・・。


ただ、途中がすごくおもしろい漫画はたくさんあっても、
実は、最後まで読んで本当に満足できる作品はそうそうないと思います。
ハチクロ」は、感情が追いつかないことが多くてさんざん泣かされたけど、
それさえ漫画の一部になってしまうような、
つまり漫画の中の人たちを本気で応援してしまうような、ホントに良い作品でした。
次回作にも期待したいと思うけど、
正直「ハチクロ」が終わってしまって寂しいという気持ちの方が強いです。
普段は漫画が終わって寂しいなんて思わないんですけどね・・。
部活を引退する時のような気持ちです。
自分の青春をもう一度辿るような気持ちで読んでいたのでしょうか。
私はいつまでたっても青春スーツが脱げないけど、
それもいいかなあと思い始めてます。