うつくしきもの

むかし・あけぼの 上  小説 枕草子 (角川文庫)

むかし・あけぼの 上 小説 枕草子 (角川文庫)

さて、久しぶりの読書日記。
読書はほぼ毎日しているのですが、
今回の本があまりにも長くて、時間がかかってしまいました。


枕草子を著者がかみくだいて、
たぶんこんな風にして枕草子を書いていたのだろう、
という想像のもと描かれている、ノンフィクションに近いフィクション、
といったところでしょうか。
藤原家のことなどは史実に基づいて描かれているけど、
こうだったらいいなってことも多分に含まれているのではないかと思います。
歴史小説でそういう部分があるのはしょうがないかもしれませんが。


田辺聖子さんの描く清少納言は、私の大好きな女性像でした。
それだけで、長い長い物語を最後まで楽しんで読めたのだと思います。
清少納言、ひいては著者の田辺聖子さんもそうなんだと思うけど、
どんな時でもユーモアを忘れない。そういうところが大好きです。
人生の中では、悲しみから抜け出せないこともあるけど、
でもずっと抜け出せない訳じゃないんだし、
苦しい時でもおもしろいことってたくさんあるんだから、
苦しさにひたるよりも、そういうちょっとしたことを見つけて、
泣き笑いでも笑ってたいと思うんです。
なかなかできないこともあるけど。
それができるのが、中宮定子であって、清少納言なんですねえ・・。
授業で習う程度の認識では、清少納言って、
漢文の知識があってそれを鼻にかけてるツンケンした女だと思われがちだけど、
私は自分に正直なだけだったんだろうと思っています。
今を生きる私が読んでも、彼女は斬新なことをしたり言ったりしている。
その正直すぎる部分で敵を作っていたんでしょうけど。


そういう清少納言と気質が似ていて、彼女の心をわかってあげられたのが、
中宮定子だったと思います。
二人の心のつながりが、全編通して丁寧に描かれているので、
中宮のために心を痛める清少納言の気持ちも痛いほど伝わってきました。
私は、これを読むまでは、
清少納言がひたすら一方的に中宮を慕っているという風に思っていましたが、
女の友情で結ばれていると考えた方が、色々としっくりときたので、
読んで何かすっきりとした気持ちになりました。
二人のいわば身分を超えた友情があったからこそ、
枕草子には嫌な出来事は何一つ書かれていないのですね。
恐れ多いから、とかそういうことではなく。


彼女の、ボーイフレンドとの交流もなかなかおもしろかったです。
私は特に、経房の君とのやりとり、行成の君とのやりとりが好きでした。
男性の可愛いところを表現できるっていうのは、
きっと田辺聖子さんの最も得意とするところなのでしょう。
二人ともとても生き生きとしていました。
もちろん、夫の則光のダメ男ぶりにも、恋人の棟世の大らかな人となりにも、
きちんと可愛げが感じられて心憎かったです。


一方、私の好きだった伊周の君ですが・・。
残念ながら、太宰府に流された後、京に戻ってからも、
あのまばゆいばかりの輝きは取り戻せなかったようでした。
清少納言目線でもそのように描かれているのだから、
世間の評価はどれだけのことだったか・・。
藤原道長一家が栄えていく裏で、
中宮一家が落ちぶれていくさまは不幸としか言いようがなく、
どうしようもないのだけど、いたたまれませんでした。
さらには一条天皇中宮定子がひきはなされてしまったり、
束の間の逢瀬があったと思っても、
すぐにまた別れ別れになってしまうのだから、涙なしでは読めません。
中宮定子がなくなった章を読んだ後は、
歴史として知っている出来事ではあったけど、言いようのない虚脱感に襲われました。
悲しかった・・。


つい先日まで、道長目線で描かれたこの時代の小説を読んでいたため、
道長にとっても決して楽な道ではなかったこともわかるし、
運だとか縁だとか、そういう不確かなことでしか片付かないのだけど、
人の性なのか、どうしても不幸だった方に強く同情してしまいます。
清少納言は、自分の立場がどうあれ中宮を一途に支えることだけが信条で、
だけど、道長のことには一目置いているという記述が文中にも出てきます。
何につけても身分が一番で、失脚した政治家のことには見向きもせず、
一の人についていくことが全てだった多くの平安人にとって、
清少納言の潔さは、変人ともとれたかもしれません。
男性にとってみたら可愛くない女だなと思うだろうし。
でも私はそんな清少納言がやっぱり好きですね。
本当におもしろかった。別の人が描いた枕草子も読んでみたいし、
いずれ、もう一度きちんと原文でも読みたいと思います。


さて、そろそろ、イタリア予習を始めなきゃいけません。
塩野七生著の「ローマ人の物語」は全部読む自信がないので、
手始めに、ルネサンス絵画を観賞するにあたり、
簡単なキリスト教知識をつけたいと思います。
何かそういった類の入門書のようなものを読もうと思います。
難しそうなので読む前から及び腰ですが・・。