噂の本です

陰日向に咲く

陰日向に咲く

うっかり手に取ったらつい買ってしまうような魅力のある本です。
買わないつもりなら手には取らないように・・。
(ただ単に、私が劇団ひとりを好きなだけ?)


作家にしろ芸能人にしろ、メディアに露出している人の創作物っていうのは、
それを読むとその人の顔が浮かんでくるというのが、
長所であり短所であると思うのですが、
これは良い方が出たのではないかと思いました。
悪い方の例を挙げると、
私の場合だと「69」は村上龍の顔が浮かばないよう、
妻夫木、妻夫木、と念じながら読みました・・。
若い頃どんなだったか知らないので、
おっさんの村上龍が浮かんでくるとげんなりしてました(失礼)。
作家の顔は基本的には知らない方がまっさらな気持ちで読めます。
知っている場合は、エッセイや自叙伝の方が読みやすい、
ちょっとめんどくさい脳みその持ち主です。
この本はそんな脳みそに合った小説だと言えるかもしれません。
いわば劇団ひとりのコントそのままの世界なので、
頭の中に流れ込んでくるストーリーの全ての人物を、
劇団ひとりが演じているかのような妙なおもしろさがあるのです。


劇団ひとりの好きなところは、見ていると、
彼にとってのおもしろさって、
かっこわるいこととか、一生懸命なこととかと紙一重で、
それと同時に、愛しさや優しさともつながるんだなあと思えるところです。
怒りや悲しみと紙一重の笑いも好きだけど、
それもやっぱり愛しさ、優しさにつながる気がします。
もう合い言葉のようになっていますが、
根っこに愛がないと、どんなに優れていても味気なくなるんですよね。
この本の中に住む人物は、劇団ひとり特有の目線で描かれているからか、
おもしろおかしく、なんだか憎めない人になっています。
人としての道徳心をなくした人ばかり出てくるのに、
彼らなりに必死にやった結果こうなのだと思うと、少しやるせなくなるくらい。
そこには劇団ひとりの愛を感じます。
あと、洞察力のすごさを改めて感じました。
それだから、笑おうと思って読めば笑えるし、
感情移入しようと思って読めば感情移入できるし、
怒ることも泣くことも少し幸せになることもできるんだと思います。
読み終わった後、心が洗われた気分になりました。
ほめすぎ?かも。


本を読んで泣くことはしょっちゅうですが、ふいに目頭が熱くなって、
制御もきかないままぶわっと視界が歪むなんてめったにないから、
会社の昼休みに読んでいてそれが来た時に、
我ながら「劇団ひとりの本を読んで涙する痛い女」だと思って一瞬ひきました。
それこそちょっとこの小説に出てきそうなキャラじゃないか。
でも、よかったです。
泣いたのはオレオレ詐欺の話でした。
オレオレ詐欺の話で泣くなんてこの先二度とないと思う。
前回読んだ「慟哭」の感想の最後に、
次はちょっと軽いものか優しいものが読みたいと書いたのだけど、
ぴったりの選択でした!
次はスピード感のあるものが読みたいな〜。