何かが変わった

ひなた

ひなた

ううーん。
これが吉田修一の味なんだけど、
踏み込まない描き方にもどかしさを覚えました。
あのまま続いていくのであろう彼らのこれからの日常を、
想像することはできるんだけど、
もう少しつっこんだところを見たかったような気がします。
彼らの周りを風のようにふわりと流れただけ。


ドロドロした部分をそう見せないところなど、
読みやすいし洗練した雰囲気を感じなくもないけど、
実際そんなんじゃないよなあと思ってしまいました。
ドロドロするのか、サバサバするのか、
どちらかに傾いて欲しかったです。
今まではそこが心地よいように感じていたのに不思議です。
私がもしこの作品の中にいたら、一人でわーわー騒いで、
みんなにハッキリしろだのなんだの言ってまわって、
読者が鬱陶しいと思うキャラになれることでしょう。
そういう、そよ風だけじゃなくて、
嵐みたいなことがあってもよかったような、
でもそんなの吉田修一じゃないかなあと思うような感じで、
いつも通りと言えばいつも通りの、吉田修一の小説でした。


世界はうまくまわってるように見えてるけど、
実は全部嘘だったんじゃないか?という恐怖のような、
ふとした瞬間の不気味さみたいなものが淡々と書かれていても、
それを「気のせい」だと明るく振り切れる程度におさえてあって、
だけど読後、どこかに違和感を残すというこの描き方に、
もしかしたら少し飽きてしまったのかもしれません。
また、登場人物の誰にも感情移入ができなかったことと、
兄弟のことにしても、私の好きなモチーフでありながら、
あんまりぴんと来なかったことが残念です。


元気が良くて、頭の中身が透けて見えるような、
若すぎる学生たちの爽快な青春王道小説の後に読んだから、
余計にもやもやしてしまったのでしょうか。
そもそも私は単純な性質なので、吉田修一の本の中でも、
本から伝わってくるほどの熱気と長崎弁にまみれた、
「Water」や「破片」(いずれも「最後の息子」に収録)」が、
わかりやすくて好きなんですよね・・。
温度かなあ。
この作品は「ひなた」だけど、温度が低かったから、
うすら寒い印象が残りました。


ただ、おもしろくなかったら必然的にページが止まってしまいますが、
これはどんどん読めたので、
おもしろくなかったってことではないと思います。
読後どうにも腑に落ちないってだけです。
同じもやもやでも、
好きなもやもやと嫌いなもやもやっていうのが各自あるだろうし、
そこは賛否あるところなのかなあと思ってます。
私はあだち充の漫画「H2」も腑に落ちなかったんですよね。
読後感は異なるものの、読んでいる最中はおもしろく、
読んだ後にもやもやする点では似ているような気がしました。