熱帯魚ノウハウ

パイロットフィッシュ (角川文庫)

パイロットフィッシュ (角川文庫)

過去と現在の話が交互に出てくる構成で、
なんにもない時間があったことも感じられるのに、
色んな出来事がどっと押し寄せてきたような感覚になり、
そこが飽きずに読めたところだと思いました。
特に私は、過去の回想が楽しめました。
恋人たちの他愛のない会話や、
尊敬している人のなにげない一言が、
思い出として輝き出してくる変化に、
悲しくなり切なくなりました。
それが、熱帯魚の飼い方、
パイロットフィッシュの運命と重ねられていたのも、
わかりやすくて印象的でした。


ただ、作品の一行目で全てを語っているから、
後に続く全ての文章がその証明みたいな感じになっている気がして、
あまり繰り返しそのことを言われると、
いい加減しつこいよ、と主人公にうんざりもしました。
主人公が私よりもずっと大人の男性なので、
感情移入しにくい部分もあったし、
たぶん背負うものが多い分、重いんですよね。
そこが私にはわからなかったところかなあと思いました。


とりたてて感動したわけでもないけど、
思うところがなかったわけでもなく、
不思議な感覚で読み終わりました。
読後感はとても良かったです。