色は匂えど

恋する伊勢物語 (ちくま文庫)

恋する伊勢物語 (ちくま文庫)

まだまだ原文を読むには脳みそが固いので、
やさしいところから手をつけていっています。
こういう解説書兼読み物という形式は、
古典文学を知るうえでとてもわかりやすくて好きです。
以前読んだ「愛する源氏物語」よりはひかえめだったけど、
著者が詠んだ歌や現代語訳ふうの歌もちょこちょこ紹介されていて、
読み応えがありました。
伊勢物語入門には最適かもしれません。


思えば私は古典の授業の先生にめぐまれていたように思います。
そもそも小学校5〜6年の時の担任が、今思えば若い男性教員だったのだけど、
なぜか百人一首を推奨していて、
正月明けの三学期最初の授業では百人一首大会が開かれていました。
その当時は古典好きという意識もなく、
ただの負けず嫌いで必死になって六十首くらいは覚えたような記憶があります。
それも「む」で始まる歌は一首しかないから、
「『む』は『霧たちのぼる』だ!」というような覚え方をしていました。
観賞するレベルではなく、とにかく頭につめこむだけ。
でも、とにかく百首を何度も繰り返し読んでいたことが、
今の私が歌を楽しんで観賞できる下地になっているような気がします。
その当時購入した、百人一首の漫画解説本は、
今も宝物のようにして大事にとってあります。
今読んだ方が、解説の漫画も楽しく読めるから不思議。


その後、中学時代に学んだ古典の授業についてはほとんど覚えていません。
やたらと暗記をさせるのが好きな先生がいて、
徒然草枕草子の冒頭文を覚えさせられたりした気がします。
そのこともまた、古典文学のリズムが身に付く下地になったかもしれませんね。


高校に入り、三年生の時の古典の先生に出会ってから、
本格的に古典に興味を持つようになるのですが、
その前の段階で一年の時の国語の先生が、
歌物語というジャンルがあるということを説明してくれて、
それぞれが歌物語を書いてみる、という課題がおもしろくて、
まずは伊勢物語が好きになりました。


俵万智の「サラダ記念日」から何首かプリントしたものが配られ、
そこから気に入った1首を選んで、好きな物語を創作しました。
歌に合う物語を書いて、好きな箇所に歌を入れるだけなんだけど、
創作自体が楽しくて、クラスのみんなが割ときちんと取り組んでいました。
先生も提出された作品を読んで、喜ばれていたような覚えがあります。
男の子で、一匹狼のような人がいて、
常に休み時間は読書をしているような人だったのだけど、
彼がどうも官能小説愛好家だったらしく、提出した作品もド変態小説だったようでした。
しかし女性の先生だったのに、
「コメントは控えるけど、君はこの路線で貫いていってもいいと思うよ」
とおっしゃっていたのが印象的でした。少しも怒らなくて。
ちなみに私は切なくて泣ける別れの歌をモチーフに、
なんか、別れる時の女の心境を綴った作品を書きました。
その作品は当時のクラスメイトと交換してしまって手元にないのですが、
その交換した友だちの作品は今も持っています。
たまに出てきたときに読んでます。


そういうこともあって、先生が好きだったから、
伊勢物語も好きになったという感じでした。
もっと広く言えば古典が。
単純だけど、実際に自分が歌物語を書いてみることで、
伊勢物語が身近になったんですね。
たしか東下りの段の「かきつばた」の歌を習った時には、
その歌で使われている技法「折句」を使って、
歌を詠んでみようということをした気がします。
もしくは私が一人遊びで詠んだだけかな?

桃尻語訳 枕草子〈上〉 (河出文庫)

桃尻語訳 枕草子〈上〉 (河出文庫)

高校二年ではついに清少納言との出会いです。
その時の国語の先生も大好きでした。
橋本治著の「桃尻語訳『枕草子』」を教材に授業をすすめてくださったので、
それまでのどことなく意地悪な印象の清少納言ががらりと変わって、
授業での枕草子観賞が終わる頃には、清少納言が大好きになっていました。
人間味溢れるところや、率直なところが、
女子高生の私にとっては紫式部よりずっと共感できたんです。
たしか源氏物語も勉強したはずなのだけど、
思い出せないくらい枕草子の印象が強かったです。
とても千年前の人とは思えないほどで、
それは桃尻語訳のおかげもあったんだと思います。
そして、三年にあがってからは授業が好きというより、
とにかく尊敬している先生に古典を学ぶことによって、
どんどんのめりこんでいきました。
当時は単語や活用も完璧に覚えていたので、
現代文くらいすらすら読めたものでした。


そんな風に高校時代からの私は文系丸出しでした。
文系というより古典にのみ偏っていました。
三年から国語の授業が古典と現国と表現の三つに分かれたのだけど、
現国の先生は太宰治ばかりを取り上げる先生で、
当時の私は太宰の良さがよくわからなかったので、
現国の授業は嫌いなくらいでした。
(それ以来、太宰アレルギーなので今もどうかわかりません・・)


まあ特にできないのは、数学や地学で、
夏の大会前なんてテスト期間中も部活があったので勉強ができず、
ひどい点数をとったもんでした。
だけど、数学の先生が二次関数の最初の授業で、
ドラえもんの「バイバイン」の回のコピーを配って、
栗饅頭が増えていって困った、というのび太の失敗から、
うまーく二次関数の話にすりかえてくださったおかげで、
自然に頭に入ってきて、数学での最高点をその時にとりました。
だから、先生や教材ってとても大事なんですよね。


前ふりがすごく長くなってしまいましたが、
つまり、この「恋する伊勢物語」も高校時代などに教材として利用していたら、
もっと伊勢物語が好きになっただろうなということが言いたかったのです。
もし古典が嫌いで、でも勉強しなくちゃなんなくて困ってる、
という人がいたら、私なら迷わずこれをオススメします。
もちろん文法の詳細などについては参考書や辞書を見ないといけないけど、
まずは伊勢物語の楽しさから知ることができるというのがいいです。
本文中にでてきた、古典は日本の大ベストセラーだっていう言葉が印象的でした。
たしかに長い期間読みつがれている作品ですからね。
そう思うと、色んな時代の人が読んできた重みというのも感じ、
いっそう古典を読むのが楽しみになりました。